与謝野晶子「八つの夜」 九日目の創作
与謝野晶子「八つの夜」とは
与謝野晶子と言えば、思い浮かぶのは「君死にたまうことなかれ」などの詩だと思います。しかしそれだけでは無く、小説や童話も書いていたことをみなさんご存知でしょうか。私は講義で聞くまで知りませんでした。
その講義は大学二年生の頃、芥川龍之介「トロッコ」など、子供を題材とした文学を扱う講義でした。与謝野晶子「八つの夜」は、その講義で扱われた童話です。
12歳の少女綾子が、神様に預けられてから8人の少女に変身する八日間を描いたお話です。講義の最後にこの童話の九日目を創作しなさいと課題が出されました。
私はこの童話が好きだったので、頑張って九日目を書いたことを覚えています。文章を眠らせておくのも寂しいのでここに置いておくことにしました。
残念ながら「八つの夜」は青空文庫では作業中になっており読むことが出来ません。国立国会図書館のデジタルなら読むことが出来ますが、読書向きではありません。
もし興味を持たれたらぜひ図書館で探してみてください。
「九日目」本文
最終日の八日目を終えたにもかかわらず、綾子はそわそわしていました。神様から実は九日目があると言われたからでした。
六時頃例のように少し眠くなってきたかと思うと、居間の机の上にお納戸色の風呂敷包みが置かれていることに気づきました。風呂敷包みを開いてみると、白いワンピースや黒いベルトなどの西洋風な服が入っていました。神様は学校に行く服装だと説明してくれました。
『今日は八つの夜を乗り越えた綾子に、特別に未来の景色を見せてあげよう』
綾子はそう言われると、不安ではありましたが、少しわくわくしました。
『服装は私が一分間のうちに変えておく』
神様はそう言いつつ綾子の手を引っ張っていきました。
四五分経って気が付くと、自分と同じ服を着た女の子が、横に並んで座っていました。
「今日の部活は疲れたねー。ねぇ綾、この後どこか寄り道していかない?」
「ごめんね順、今日お母さんに洗濯頼まれてるから!また今度ね」
「家事手伝うなんてえらいなぁ綾は。うん、分かったまた今度ね」
電車の扉が開くとともに、綾は電車から降りて順と別れました。
綾の家は学校から少し離れているので帰宅する頃には八時を回っていました。
「ただいまー」
綾は玄関のカギを開けて家の中に入りました。
「あ、おかえり」
「あれ?お姉ちゃん、今日帰ってくるの早いね」
綾のお姉ちゃんは一階のリビングでソファに座ってテレビを見ていました。
「学校で勉強して帰ろうかと思ったんだけど、やめた。たまには休みも必要よね。」
「高校三年生の受験生なのに、そんなので大丈夫なの?」
「そういうあんたはテスト大丈夫なの?」
「わ、わたしは勉強してるし!……ちょっとだけ」
綾はお姉ちゃんの目線から目をそらしました。
「中学生最初のテストは重要なんだからしっかりしなさいよ」
「はーい」
綾子の綾はそう言って階段を上り、二階にある自分の部屋へ荷物を置きに行きました。
その後、かごにたまった洗濯物を洗濯機に入れて回し、お風呂を済ませてから食事のためにリビングへ戻ってきました。
「お姉ちゃん、晩御飯作ってくれてたの!?」
テーブルにはメインの白ご飯と焼き魚に加え、サラダなどの副菜が置かれていました。
「まぁお母さんが置いてくれてたものに、いくつか足しただけだけどね」
綾は『今日は帰りが遅くなるから、冷蔵庫に入れたものをレンジでチンして食べてね』とお母さんからメールが送られてきていたことを思い出しました。
「お姉ちゃんと夕飯食べるのって、なんか久しぶりだね」
二人はテーブルを挟んで向かい合わせにイスに座りました。
「そうね…そういえば家族の誰かと一緒に食べること自体久しぶりかも」
「お父さんとお母さんは元から仕事で帰るのが遅いし、私たちも帰れる時間が変わってきたもんね……」
綾は少しうつむきました。
「ねぇねぇ綾、これ見て」
「あ、それ!」
お姉ちゃんが持っていたのは、綾が前から見たがっていた映画のDVDでした。
「それ、どうしたの?」
「綾と一緒に見ようと思って買ってきてたの。この後一緒に見よ」
「でもお姉ちゃん、勉強しなくてもいいの……?」
「勉強なんかより、家族と一緒に過ごす時間の方が大事に決まってるでしょ」
お姉ちゃんの笑顔を、綾はまぶしく感じました。
「お姉ちゃん……勉強したくないだけでしょ」
「ばれたか」
二人はとても嬉しそうに笑いました。
晩御飯を済ませた後、映画を見始めた二人でしたが、一日の疲れがきたのでしょう。映画を見終わった後、二人はソファで寄り添い合うようにそのまま眠りに落ちました。
綾子は神様に返されてから、姉妹に憧れて、山の娘とまるで姉妹のように過ごしたことなどは皆さんの想像にお任せしましょう。