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武田綾乃先生の講演会に行ってきましたれぽ

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【響け!ユーフォニアム】武田綾乃先生の講演会に行ってきましたれぽ

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 2019年12月19日、『響け!ユーフォニアム』シリーズの著者である武田綾乃先生の講演会が京都橘大学にて行われました。

奇跡的に休みと重なっていたため、一般枠として大学生に混ざって参加。

どんな話が聞けるかなと思っていましたが、創作論と作者自らによる『響け!ユーフォニアム』のキャラクター論でした。

 

講義の内容に関しはてどこまで書いて良いか悩みましたが、Twitterで参加者が内容のツイートをたくさんしていますし、備忘録として使うので気にせずに書くことにします。

 

 

武田綾乃先生について

武田綾乃先生は京都府宇治市出身の小説家。

2012年、大学1年生の時に『今日、きみと息をする。』にて、第8回日本ラブストーリー大賞最終選考候補作品となり、2013年に宝島社文庫より刊行されデビューしました。

代表作に『響け! ユーフォニアム』シリーズがあり、京都アニメーション制作でアニメ化されています。

 

会場:京都橘大学

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会場:京都橘大学

 会場となった京都橘大学は京都市営地下鉄東西線沿線、山科から少し行ったところにあります。高校時代の同級生が在学していたので、何度か足を運んだことがある場所でした。

 この大学の文学部日本語日本文学科は毎年作家による講演会を開催されており、これまでの作家陣は綾辻行人、有栖川有栖、森見登美彦、万城目学、綿矢りさと錚々たるメンツ……羨ましいとかそういうレベルではない。

 私の大学ではこういったことが無かったので、京都の大学だからなの?京都の大学だからなの?と思いました。

 学生に交じって、武田先生の講演会を聞きに来たと思われる人々がチラホラ。私もつい最近まで大学生だったはずなのですが、学生がニンテンドースイッチライトでポケモンをやっているのを見てジェネレーションギャップを受けていました。

www.tachibana-u.ac.jp

作家になるまで

 武田先生は京都府宇治市生まれ。

 大学一回生の時に宝島社の日本ラブストーリー大賞の隠し玉としてデビューします。現在27才とのことでお若いなとは思っていましたが、デビューが早い。

 ちなみになぜ隠し玉かに関しては、ラブストーリー大賞なのに青春小説を送ってしまってカテゴリーエラーではじかれたから。

 高校生の時に小説を書くのにドハマりし、受験そっちのけで小説を書きまくっていたそうです。

 その結果として浪人。しかし浪人時代も小説を書きまくり、理解者である友人に長文の小説をメールで送り付けまくる日々だったそうです。狂人

 そして同志社大学に入学後は1年で5つの小説賞に応募することを自分に課し、1回生の時に応募した作品でデビューしたとのことです。やはり作家になるような人間はやることが違うなと思います。

 

 そして二作目に執筆したのが『響け!ユーフォニアム』の第一作。三回生でアニメ化が決まり、四回生の時に放送開始と言うのですからその早さに驚愕します。

 しかし、この道のりは楽では無く、大学時代は執筆に並行して塾講師のアルバイト。三回生の時には大学の健康診断で持病の腎臓病が発覚し入院。入院しながらアニメ化するユーフォの執筆。作家としての将来も分からないため、就活も続けるという…多忙な年だったそうです。

 今は腎臓病は治療済みですが、この時の経験から「体の弱い私には兼業作家は無理だ」と、専業作家として生きていく覚悟を決められました。

 デビューの際に編集者から「絶対に仕事をやめないこと(作家一本にしないこと)」「作家の生存率はガンより低い」と言われたそうですから、この覚悟を決めるのはとても勇気が必要だったように思います。

 

 そんな武田先生から大学生へのアドバイスは

  • 大学の健康診断は受けろ

  • 生命保険は早めに入れ 

 なんて実用的なアドバイス……生命保険加入は持病発覚後だと難しくなるそう。

 

作家としての仕事

プロット作成

刊行までの流れ

 ①プロット作成 → ②企画会議 → ③執筆 → ④刊行

 

 プロットとは、物語のあらすじと登場人物の設定を書いてまとめた設計図のようなものです。

 まず本を出すまでの手順として、新人作家の一番の難関は企画会議だと言われました。

 どれだけ文章を書いても、綿密なプロットを書いても会議に通らなければ全てボツ。

しかも新人作家は完成原稿で応募してデビューしていくので、プロットの書き方を知らない人が多いそうです。

  作家によってもプロットの書き方は様々で、設定などを細かく書く人も居れば、「書いて見なければ分からない」と人物の関係性だけ軽く書くだけの人も居るとのこと。武田先生は前者で、4~5万字のプロットを4,5日で書き上げるそうです。ボツになってもかまわないラインを見つけないといけないと話されました。

 また企画会議のために戦略を練る作家も多く、売れ線(トレンド)に寄せたり、編集の要望に寄せる場合があるとのこと。

 

 プロットに必要なのは数万字。ネットには「毎日〇万字書かないと作家にはなれない!」という声があるが、武田先生は「そんなことはない」と言われました。良い文章を書こうとすると頭を使うから疲れる。作家でも一日に少ししか書けない時もあるし、ゲームしちゃったりもするよとのこと。

 先生の経歴を見ると説得力は無い

 

プロットで心がけていること

 そんな武田先生がプロットで心がけていることが以下

  • キャラの性格を確定する(言動のブレを防ぐため)
  • 起承転結の承結の部分を強く(ただし、承<結になるように)
  • 構造のバランスを意識
  • プロットだけを後で読み返しても面白いように

 それに加えて文章を書く時、「作家としての私」と同時に「読者としての私」が存在すると言われました。「読者としての私」は文章を書き進めるなかで、続きを読みたいと待っているそうです。

 また「作家としての私」が文章を書きあげても「読者としての私」がダメと言ったらだめになるそう。

 一応書いておきますが、二重人格とかいう話ではないです。先生は「これ言っても分かってもらえるかな……」と気にされていました。

 そのようにして、「読者としての私」を大事にして、自分が好きなものを曲げないようにしているそうです。そうしないと仕事を楽しめなくなってしまうから。

 

キャラクター論

 小説の構成として、題材・キャラクター・構造・文章の4点を挙げ、今回は分かりやすいものとしてキャラクターを取り上げられました。

 

久石 奏

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『劇場版響けユーフォニアム 誓いのフィナーレ』

©武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会

 ユーフォニアム2年生編に新入生として登場する女の子です。ユーフォを担当する主人公久美子の直属の後輩になります。アニメでは劇場版より登場。

 このキャラクターは、久美子の天然な部分をカバーするため、ズバズバと切り込む現実的なタイプに作られています。ホームズで言うワトソン的役割を与え、主人公の弱点を補う形をとっているとのこと。

 さらに、2年生編があるという事は、3年生編があるという事。つまり2年生編における新入生たちは3年生編でも登場するという役割を背負って生まれてくるため、味付けを濃くする必要があったと言われました。

 個人的に「役割を背負う」という言葉を登場人物に対して使われたのは驚きでした。一人ひとりを本当に大事に作られているんだなと思いました。

 

個性とは何か

 武田先生は個性のことを「自分と他者との差」「他者があって初めて存在する」と言われます。

 分かりやすく差別化できるのは台詞や性格がありますが、それだけでは無く、反応や行動の違いを挙げられます。

例としての「みかんの皮の剥き方」

 正直みかんの剥き方ひとつで何が分かるんだ?と思いましたが、

  •  綺麗に周りをとって剥く → 几帳面
  •  バラバラに剥く     → いいいかげん
  •  最初に2つに割る    → おおざっぱ
  •  他人に剥いてもらう   → 甘え上手
  •  剥かない        → 控えめ、奥手

とここには書ききれない、メモしきれないくらいの個性が発生していました。

基本的なことかもしれませんが、「そうか、作家はただ『みかんを剥く』の一文で終わらないんだ。一つひとつの行動に意味を持たせることが出来るのか……!」と衝撃を受けました。

  ある種ステレオタイプ的かもしれませんが、こういったお約束の設定がしっかりしていると、読者は新しい情報を処理しなくて良いのでストレス無くストーリーを楽しめるそうです。

 

のぞみとみぞれ

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『リズと青い鳥』

©武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会

 2人の登場人物を決めて関係性を持たせることが多いそうです。

例として傘木希美(かさきのぞみ)と鎧塚みぞれの二人を挙げられました。

この二人は映画『リズと青い鳥』において、物語のメインとして描かれました。

2人の設定は対照的になるように作られています。

 余談ですが、この二人の話をする際に先生が名字を混同してしまい、「傘木みぞれ」とおっしゃられました。オタクは何も言わずにただ天を見上げました。見知らぬ天井だ… 

 

描写

 登場人物を描く際に視点主の頭の良さを気にして書くとのことです。ポジティブ・ネガティブといった考え方や、身長差、身長からの目線の高さ、動作の癖など。

 加えて言動と性格にブレがないかも注意していると言われました。

 印象的だったのは、新潮社との打ち合わせのお話。電車の風景描写で、「この座席位置からでは風景は見えない」と言われたそう。 

  またこういった風景描写を入れることで読者に間をとらせていると話されました。

セリフ以外を読み飛ばすような人に対しても、目線移動の時間分間が生まれているとのこと。間の感覚すら操っていたのかと驚きました。

 

作品の評価

 武田先生は作品の評価についても話されました。個人的な評価軸として挙げられたのは以下の5つ

作品の評価軸

①構成 ②ジャンル ③売れ筋(話題) ④キャラクター ⑤文章

 しかし、読者側の心理状況や好みによって大きく影響を受けます。前は面白くなかったけど、何年か後に読んだら面白かったなど。

 それをふまえた上で、今売れている本は何が受けているのかを考えることが多いそうです。そういった流行の感性がズレないことを大事だとしつつ、その中で自分の”好き”がブレないことを大事にされていました。

 

受講を終えての感想

 作家の講演会には何度か参加したことがありましたが、こうしてしっかりと創作論に関してお話しを聞いたのは初めてでした。年齢も近く、ファンである作品の作者のお話を聞けて大変嬉しかったです。

 作家になっての苦悩は、書き方への目が肥えてどんどん満足のいくラインが上がっていってしまうこと。作家になって良かったことは、嬉しいこと、悲しいことどんな感情も分析して作品へと昇華出来ることと話されました。こういう作家だから、繊細な感情や青春物語を書き出すことが出来るんだなと思いました。

 現在どんな作品を執筆されているかもお聞きすることが出来たので、これからどのような作家になられるのか大変楽しみです。

 

先生から大学生にオススメする本

 最後に武田先生から、学生にオススメする本を挙げられました。全てメモしておいたので、ここに載せておきます。

 こちらに目を通しておくと武田先生の作品理解が深まるかもしれませんね。

 個人的には綿矢りさ『勝手にふるえてろ』があったのが印象的でした。又吉直樹と共に芥川賞を受賞した羽田圭介も綿矢りさに影響を受けていると聞いたことがあるので、この作家に人生狂わされた人多そうだなとどうでもいいことを思いました。

 以下オススメ本。

辻村深月 講談社文庫
綿矢りさ 文藝春秋
田嶋陽子 新潮文庫
ミルグラム・スタンレー(著),山形浩生(訳) 河出文庫