マタタビのみかん箱

月日は百代の過客にして、行きかふ年もまた旅人なり。

マタタビのみかん箱

ペンと本に、みかんを添えて
武田綾乃先生の講演会に行ってきましたれぽ

武田綾乃先生

講演会れぽーと
【読書】大学生へのおすすめ本 展示の記録

おすすめ本

展示記録
クソデカ文学「クソデカ羅生門」のマジ半端ない風情を読み解く。

クソデカ羅生門を

読み解く
注目ボードゲームまとめ

注目ボードゲーム

まとめ

死にまつわるエトセトラ

f:id:matatabi6785:20201122035632p:plain


 仕事からの帰り道。もう20:00を回った頃。自転車で走っていると、パトカーのサイレンの音が聞こえてきた。

 前方に踏切を挟んでちょうど反対側から近づいてくる。踏切は降りていたため、「緊急車両でもさすがに止まらざるをえないな」とどうでもいいことを考えていた。

 予想通りパトカーは踏切の近くで停車したが、すぐに何人かが降りてきて線路沿いを走っていく。

 程なくして踏切待ちをしていたいくつかの車が踏切を避けるように、脇道にそれていった。「あぁ、この踏切が上がることは無いのだな」とその時分かった。

 

 いつまでも止まない踏切の音。カンカンカンとひたすら鳴り続ける。標識が赤く点滅する。暗い夜道の中で踏切だけが外灯に照らし出され、そこだけがまるで違う世界のように見えてくる。

 いつもならこの踏切の道は通らない。今日はたまたま寄り道をして、たまたま時間が遅くなって、ここで止まっているのだ。寄り道などせずもっと早く帰れば良かった。そう思いながら、遠回りの道に入って踏切を後にする。

 しかし騒動の全容は分からない。

誰か亡くなったのだろうか。それとも鹿でも撥ねたのだろうか。そんなモヤモヤが離れなかった。踏切の反対側に着く頃には確かめたい気持ちは強くなり、線路の上側へ回り込むことにした。

 この線路は山を下るように道が作られており、上側では電車が止まっていた。大きく光る車体は、暗い田舎の夜道で圧倒的な存在感を放つ。周りでは、「何かあったのか?」と近所の人たちが集まってきていた。老夫婦が不安そうに電車の先を見つめている。

 回り込んでみたはいいが結局全容は見えなかった。しかし、野次馬のような好奇心はもう満足していたし、疲れていたので帰ることにした。

 そして何よりももうあまり近くに居たくなかった。死が近くに居るようで気味が悪かったのだ。逃げるようにして自転車をこいだ。

 少し走れば住宅街があり、そこにはいつもと変わらない日常があった。おそらくこの辺りの人々は近くで電車が止まっていることを知るはずもない。事故で誰かが亡くなったのだとしても、知ることはない。当たり前の日常がそこには流れていた。

 今この場所では死は小さな出来事でしかなくて、点に過ぎないのだ。その点は水面に落ちた石ころのように波紋を広げることも無い。まるでゲームのバグのように世界に突然現れ、消えていく。そうしてまた当たり前の日常が続いていく。

 電車の中には、寝ている人や座っている人が何人か居た。人身事故か。早く動かないかな。そんな事を考えているのだろうか。自分は大学生の時には電車通学をしており、そんな事をよく考えていた。今だって電車に乗っている側だったらそう考えていただろう。

 でも今回は違った。電車が止まるのを外側から眺めたのは初めてだった。そうか、外から見たら、こんなにも死を近くに感じるのか。

 大学生の多いマンション地帯を抜けて家に着く。大学生たちは事故のことなど知らず、きっと自由に過ごしているだろう。そんなことを考えていた。

 家に入ろうとすると、カンカンカンと音が鳴っていることに気付く。その音はいつまでも止まない。ふと思い出す。そういえば近くにも線路があって、そこには小さな踏切があったのだった。

 その線路はあの事故の場所へも続いている。

音が気になって、小さな踏切を見に行く。カンカンカン。音がやむことは無い。赤い標識は点滅を続けていた。

 来る事の無い電車をずっと待ち続けているのだ。