【夏のおすすめ】マタタビ氏、『ペンギン・ハイウェイ』を語る。
今回は私が好きな作品の話。
森見登美彦『ペンギン・ハイウェイ』について。
『ペンギン・ハイウェイ』は森見登美彦の小説です。2018年に劇場アニメ化もされました。
夏にオススメの作品なので、今回は小説とアニメそれぞれについておすすめポイントを書いていきます。
物語について
あらすじ
小学生が主人公の作品です。
小学4年生のアオヤマ君は、一日一日世界について学び、そしてノートに記録している男の子。同年代の他の子に比べれば、大人びていて落ち着きがある少年です。
そんなアオヤマ君の住む町に、ペンギンたちが現れます。
「このペンギンたちはいったいどこからきたんだ?」アオヤマ君は調査を進める中で、大好きな歯科医のお姉さんがペンギンたちに関わりがあることを知ります。
「お姉さんはいったい何者なんだ?」とアオヤマ君は自分なりに研究を進めるのですが、他にも様々な不思議な現象が町の中で起こり始めて……
作者について
作者は森見登美彦さん。京都大学卒、同院卒。2003年に『太陽の塔』で日本ファンタジーノベル大賞を受賞してデビューします。
2006年に出版された『夜は短し歩けよ乙女』で第20回山本周五郎賞を受賞。第137回直木賞候補、2007年本屋大賞第2位に選ばれます。
2005年に出版された『四畳半神話大系』など、京都を舞台に少し難しく可笑しな言葉回しをする「腐れ大学生」の物語を描きました。
現在も多くのファンをもつ人気作家です。
小説の特徴とおすすめポイント
舞台と作風
森見登美彦さんは、基本的に京都を舞台にした作品が多いのですがこの『ペンギン・ハイウェイ』の舞台は京都ではありません。
森見登美彦の出身である奈良県生駒市が舞台のモデルとされており、映画でも聖地として生駒市が使われました。
作風も京都の大学生を主人公とすることが多かった中で、この作品は小学生を主人公にしています。語り調も難しい言葉を使わないため、他の作品に比べると読みやすくとっつきやすい作品になっています。
このように、これまでの作風と大きく違ったため、「新境地」と呼ばれることもありました。
「アオヤマ君」と「お姉さん」
この作品はヒロインがお姉さんという少し変わった構造を持っています。何でも探求するアオヤマ君と、不思議な魅力の詰まったお姉さんは両方ともキャラが立っていて、掛け合いが面白いです。
特にカフェで2人がチェスをしながら語り合うシーンは、二人だけの不思議な空間が作られていてとても魅力的でした。
この小説の冒頭には、印象的な文章がいくつかあって、アオヤマ君の性格を表しています。
ぼくはたいへん頭が良く、しかも努力をおこたらずに勉強するのである。
だから、将来はきっとえらい人間になるだろう。
他人に負けるのは恥ずかしいことではないが、昨日の自分に負けるのは恥ずかしいことだ。一日一日、ぼくは世界について学んで、昨日の自分よりもえらくなる。
「一日一日、ぼくは世界について学んで、昨日の自分よりもえらくなる。」と言うのは、私が好きな一文です。こういう気持ちを大事にして生きていきたいですね。
このように勉強熱心で真面目なアオヤマ君も、お姉さんにはかないません。
「この謎を解いてごらん。どうだ、君にはできるか?」と、軽くあしらわれてしまうのですから、お姉さんの不思議さがより際立っていますね。
”SF”という”新境地”
ファンタジー系の小説を多数発表してきた中で、この作品は第31回日本SF大賞を受賞しています。
どうしてSFというジャンルに含まれているのかと不思議に思われる方には、ぜひ一度読んで確かめていただきたいと思います。
そして、森見さんが影響を受けたと語っているスタニスワフ・レムの『ソラリス』という海外SFにも、ぜひ目を通して見てください。
劇場アニメのおすすめポイント
監督と制作スタジオについて
2018年に映画化され、「スタジオコロリド」という新鋭のアニメスタジオが制作を担当しました。監督は石田祐康さんが担当されました。
本作はスタジオ初の長編アニメとして発表されましたが、石田監督の短編作品はこれまでに何度か見た事があったので、どのような作品になるか楽しみでした。
これまで森見作品の映像化には、湯浅政彦監督と脚本に上田誠(ヨーロッパ企画)さんが担当されることが多かったのですが、今回は上田脚本に新しいスタジオということで、映像でも”新境地”を見ることが出来たと感じています。
躍動するペンギンたちと美しい風景
第22回ファンタジア国際映画祭にて、最優秀アニメーション賞にあたる今敏賞(長編部門)を受賞。日本アカデミー賞優秀アニメーション作品賞を受賞し、文句無しの名作になりました。
特に見てほしいのは、映像化によって描かれた自由自在に動き回るペンギンたち。そして瑞々しく、美しく色鮮やかな風景です。
作品自体の雰囲気と石田監督の作風は絶妙にマッチしていました。
小説の魅力をそのまま引き出したような作品で、何度見ても面白いです。
個人的に好きなのは見事な”海”の映像化です。
どんな風に表現されるか楽しみにしていたので、映画館で見た時に感動したのを覚えています。
おわりに
夏に読んでほしい、見てほしい作品として『ペンギン・ハイウェイ』を紹介いたいしました。
どうでしたでしょうか。
この作品を楽しめた方は、ぜひ他の森見作品にも手を伸ばして見てください。
最後までお読みいただきありがとうございました。